君までの距離
「いつもコケてるんだね」
ラフにしている髪はくしゃくしゃで、舞台上がりでもまだシャワーを使っていない体からは汗の匂いがしたけれど、嫌じゃなかった。
「…ち、違います。慌ててたから」
「じゃあ、その靴が危ないのかもね」
いたずらっぽい色が瞳に映る。
「…まあ役得かも」
いまさらだけど腰に回された腕が恥ずかしくて、胸を押した。
顔に熱が集まってきて、目を合わせていられず、顔を伏せた。
「あのっ……ありがとうございました。もう大丈夫ですから」
頭の上で、ふっと笑った息が髪を揺らす。
きゅっと一回力を込めて抱きしめて、腕が離れる。
離れていく腕が寂しい……
「そう、残念。あっでもオレ汗臭かったからゴメンね…あ、本当ヤバイ…」
腕を上げて匂いをかいでいる。そんな仕草も、なんだか新鮮で嬉しい。
スーツを着こなす紳士的な高遠さんより、ジャージの高遠さんのほうが親しみがあった。