君までの距離


親子丼を食べ終わって、お茶を飲んでいたら、思い出したかのように店長が言った。



「ところで、なんであんなに疲れてたんだい」

アタシは恥ずかしくなって、手元の湯呑みを覗きこんだ。

「今日、生まれて初めて舞台を観たんです…夜中から親友がチケットを取るのに並んでくれて…本当、すっごいプラチナチケットなんですよ」

視界に急須があらわれて、湯呑みにお茶をさしてくれた。

アタシはお辞儀して話を続けた。


「もう舞台はすっごい感動しちゃいました。俳優さんて体をはって演技してるんですね。それで感想用紙を書いてたら、その舞台にいた俳優さんがアタシの所に来たんです」



コケて支えてもらったなんて言えないけど…



「アタシ、もうびっくりして頭が真っ白になっちゃいました」

あはは、と笑いをこぼす。

「へぇ。でもまだ何かあったね」


笑顔で目を細めているけれど、質問は意地が悪い。

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