君までの距離
ざわざわした部屋でも尾上さんの声は響く。
「渡辺さ、高遠裕也って知ってる」
彼は会議資料を片手に、アタシを見下ろしていた。
自分から聞きにいかなくても済んだことを内心喜びながら、顔には出さないように引き締める。
「少しなら」
「経歴とか顔写真とかチェックは入れてるんだけど、ドラマの録画持ってない」
多少リサーチが甘かったらしく、高遠さんのことを詳しく知らないらしい。
「持ってますよ。彼、舞台俳優だから舞台を観に行ったらどうですか」
言ってからシマッタと思ったものの、言葉は返らない。
「知ってる。かなりプレミアなんだから、普通に手入らないよ。あんまりそういう事に興味なさそうなのに、意外に知ってるんだ」
高遠さんのことなら、にわかファンだけど、しつこいくらいチェックしている。
「ドラマでの人気が凄いんですから。ツイッターやネットでは話題になってますよ。ほんのちょい役だったのに、人気があるので彼を主人公にした回も作られるみたいですよ」
「へぇ…知らなかった。福田部長のイチ推しなわけだ。あそこん家は奥さんと娘二人だからね。詳しい訳だ」