君までの距離
「いや…いい。まだ早いみたいだ」
尾上さんは、すっと唇を撫でて目を細めた。細くなって鋭くなった目には妖しい光があった。
それも見間違いかと思うような一瞬で、また大型犬のような風貌になる。
「もうお代わりのことを考えてますね」
「そんなことはないよ。乾杯しようか」
「はい。乾杯~お疲れ様でした~」
グラスを合わせるとお互いに飲み物を口にした。
「今日は誘ってもらって嬉しかったのですが、女の人の視線が痛かったですよ。尾上さんと一緒にいたら恨まれそうです」
「渡辺さんが気にすることないよ」
「アタシは気になりますよ。死活問題です」
「なにそれ近づくと消されるの」
「だって普通に生活できなくなりますからね」