君までの距離

「尾上さんはどうするんですか?」


「移動手段がないから会社の車を借りて行くよ」

「あっ…アタシも一緒に行っていいですか」

どう考えても滝瀬川の上流に電車通っていない。自力で行ける所だとは思えないから、尾上さんに乗せてもらえるならこれ以上の選択はない。

じっとこちらを見る黒い瞳とぶつかる。


「いいの?わかってる?」

「滝瀬川には電車がないですし、最寄り駅からバスでどれだけかかるのか…バスだってないかもしれないし…」

バスがないなら、タクシーしかない。禁断のタクシー。実家が中途半端に田舎なため、まずタクシーを使うということがなかった。車の所有は一人一台で通勤手段でもある。電車で都内に出ても、駅まで車で送迎が当たり前な地域なのだ。

アタシはタクシーなんて乗ったことがないのだ。

乗ったことのないタクシーに乗り、知らない場所に向かえるだろうか。まして撮影現場は山の中で目印すらないのだから。

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