恋人境界線
恋人境界線
「ここのさぁ、アンダーラインんとこあんじゃん?」
ノック式のボールペンでとんとんと、ノートをつつく。春臣の癖。
見慣れたその仕草も、男の癖にやけに綺麗な指先も。
すべてに見惚れる自分に今日も同情する。
「ここってテストに出んの?」
「わかんない。てかさ、せっかくの旅行なんだからノート写すのもうやめない?」
揺れる電車の中で、よくもまあノートの細かい字を見てられるなあと思う。
付き合ってるあたしの方が酔ってきた。
「わかったよ。最後に民法だけ見せて?それでやめるからさ」
「はいはい、民法ね」
ファイルに挟まったルーズリーフの付箋を指先で辿って、民法のノートを探す。
あたしたちの周りでは、まだ行き先の海に着いていないというのに、既にデジカメ片手に記念撮影を始めた友達が楽しそうな声を上げていた。
「志麻のノートは見易いからいつも助かるわ」