恋人境界線
ようやく正気を取り戻したあたしは、春臣の体を突き放した。
「あんたには彼女がいるじゃない」
なんでこんなことするの?
あたしの心をこれ以上掻き乱さないでよ
「…あんたとあたしは、友達じゃんっ」
精一杯の強がりで、いつもそう思う努力をしてるのに。
自分に強く言い聞かせて、諦めようと頑張ってるのに。
「利己的だな、お前」
額に手を当てて冷たく言った春臣に、あたしも迷わず言い返す。「それはそっちでしょ」
こんな風に、手に入れたかったわけじゃない。
あたしは利己的なんかじゃない。いい加減で、強引で。悪いのは全部、春臣じゃない――
小さな沈黙を破ったのは、春臣だった。
「俺の中ではお前は最初から、友達なんかじゃなかったよ」
言いながら歩きだすから、語尾がフェードアウトする。
だけど最後の一字まで、あたしは耳を澄ませて聞いた。
――友達なんかじゃなかったよ
「…っなによそれ…」
こんな風に、誰かを傷付けて、あなたの領域に足を踏み入れたわけじゃないの。