恋人境界線
みんなから認められるれっきとした恋人として、水着姿を見せたり写真を撮ったり。
こそこそ罪悪感を抱いたりもせずに、ハグして、見つめ合ってキスをして。
不意打ちなんかじゃなくって。もっとちゃんと、気持ちのこもったキスが良かった。
「…っう…」
だけど、それが叶わないと。
手が届かないと見限って、勝手に境界線を張っていたのは、他でもなくこのあたしだ――
「…ううっ…」
廊下の暗さに瞳に溜まった涙が手伝って、春臣が去った背中はもう見えない。
今更気付いたって、遅かった。
恋人にはなれない
友達には戻れない
『志麻のノートは生まれたときからずっと俺だけのもんだから』
今後、綺麗にノートをとる必要なんてない。
春臣の言動にいちいち胸を締め付けられることもないし、新しい癖を見つける幸せもない。
失うのが怖くて、踏み出せなかった一歩の大きさを、改めて思い知った。
涙を拭きながら、自分の部屋に戻る廊下を辿る。
こんな風にたどたどしくてもいいから、友達に戻る道が欲しい。失うのならいっそ、境界線を疎ましく思わなければよかった。
そんな後悔を、胸に抱きながら。