恋人境界線
そう言い続けて早5年。
高校生のときからずっと、あたしのノートをあてにしてきた。
あたしは、「おだててんな」なんて可愛くないことを言いながら、貸してきた。
ボールペンでノートをつつく癖、親指と人差し指でペンを支える独特な持ち方や、書くときに僅かに伏せる長い睫毛。
それらをいつも、物欲しそうに見つめながら。
「春臣ー!一緒に写真撮ろうよ」
「薫、悪いけど後にして」
離れた座席からわざわざデジカメを持ってきた薫は、あからさまに眉を下げた。
そのままの表情で、あたしににこりと笑い掛ける。
「電車の中でまで志麻のノート写してるの?あたしも貸してもらおうかな!」
「いや、もう終わるから」
ノートに目を落としたまま春臣は、薫と目も合わさない。
「…わかった。でも海に着いたら一緒に撮ろうね。志麻もね!」
「あ、うん…」
自分の席に戻る、淋しそうな薫の後ろ姿を見て、あたしまでいたたまれない気持ちになった。
春臣の睫毛は、伏せられたまま。
「…彼女なのに、いいの?」