恋人境界線
相手が電話を選んだことに、正直驚いた。
今までなら、メールだった。用件は決まって、ノートを貸してくれ、だったけど。それでも、意味不明なローマ字の羅列であるアドレスを、暗記するくらい、あたしは春臣からのメールに釘付けになって何度も、丁寧に目を通した。そのくらい、メールだけで嬉しかった。
だから、携帯の電子音が着信を知らせ、画面に春臣の名前が出たときには、手元から携帯を滑り落としてしまうくらい、驚いたんだ。
春臣が、メールではなく、電話をくれたことに。
「お前さ、民事訴訟法のノート、とってる?」
きた、と思った。
やった、って。
「うん、とってるけど」
「やた!借りられる?俺休み明け追試なんだよね」
「…構わないわよ」
声が上ずらないように、十二分に注意した。
でないと、携帯を通して、あたしの胸の高鳴りが相手に伝わってしまうんじゃないか、と。
そんな、乙女みたいなこと。本気で思ったんだ。
「明日とか、空いてる?」
トントン拍子で約束は取り決められ、「じゃ」という素っ気ない一言で電話は切られた。