恋人境界線

結局あたしは、大学に向かうのと大差ないシャツワンピ姿で駅前に向かっていた。


「暑…」


9月も終わりに差し掛かり、暦の上では秋を迎え終えたのに。
太陽から生み出される熱風は、北風に居場所を譲らんとしているのか、歩いていると額に汗が滲む。暑い。

それでも足取りは軽やかだ。
だって、春臣に会えるから。

貸すノートに不備はない。いつも、真面目に授業を受けていたのは、今更自覚するのも癪だけど。
春臣に貸す為だから。

メイクにも抜かりはない。派手になって浮かないように、なるべく慎重に、丁寧に施してきた。
少しでも、綺麗に見えるように。

駅に着く、一歩手前。
歩行者信号が点滅して、焦ったあたしが駆け足で渡ろうとしたとき。


「こら、走るな」


後ろから、腕を掴まれて立ち止まる。
聞き慣れた声、よく知っている、ぬくもり。


「そんなに急いで、誰に会いに行くの?」


振り返れば、いたずらに笑う春臣がいる。
目を見開くあたしを面白そうに観察しているように見えて、あたしはとっさに目線を落とした。
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