恋人境界線

「…っ、急いでなんか、ないけど」


また、可愛くないことを言う。
あなたに会いたくて、昨日から楽しみにしてたの、とか伏し目がちに言って、その腕の中に飛び込めたら。

一気に境界線なんて、目に映らない透明になって。
元からそんなもの無かったみたいに、さっぱり綺麗に消えてくれるのに。


「そ?じゃあ、息上がってんのは、俺の気のせい、ってことで」
「そうよ、気のせい、春臣の思い違いだね」


言いながら、息を整えるあたしは今、強がりで、嘘つきだ。
春臣はすべてを見透かしたようにこもった声でくっと笑い、掴んでいたあたしの腕を解放する。


「ノート、持ってきたよ」
「お、サンキュー。助かるわ」
「時間あるなら近くでコーヒーでも飲まない?」


入念なシュミレーション通り、相手ににっこりと笑いかける。


「追試で出そうなとこ教えるから」


よし、ここまで言えた。と、思ったのもつかの間。
春臣は、うーん、と目線を上げて宙を仰いだ。


「その前に。ちょっと買い物に付き合ってくれない?せっかくのデートなんだし」
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