恋人境界線
…デート?これが?
「、は?」
「ちょうど香水切らしててさ。すぐそこの店だから、行こう」
ぽかんと相手を見つめ返すも、刹那。
再び腕を引っ張られたかと思うと、そのまま春臣は歩き出すから、あたしも足を動かさなければならなかった。
…デート、デートなんだ。
そりゃああたしにしたら、願ってもないお誘いだけど。
でも。五年間も、胸にしまい込んできた想いなのに。なかなか越えられない溝があったのに、こんなに簡単に急接近しちゃっていいのかな。
こんなの。幸せすぎて、怖いよ。
「お前、歩くの遅いのな」
振り向いた春臣が、困った風に眉を下げて笑う。
その表情が、心細く不安気なようにも見えて、あたしの胸がキュッと軋む。
春臣も、これが恋のはじまりだって、期待したりするのかな。かと思えば、一歩踏み出すことに怖じ気づいたりも、するの?
あたしと同じように。
「はっ、春臣が速いんでしょ?」
小刻みにヒールを鳴らして、あたしは春臣の隣に並ぶ。それを横目で確認した春臣は、歩調を緩めた。