恋人境界線
「ありがとうございました!またお待ちしております」
先ほどとは打って変わって、邪気のない店員の笑顔であたしたちは見送られた。お揃いのショップ袋を、手にして。
「あ、ありがと」
「いいって。いつもノート借りてたお礼に」
プレゼントされてしまった。春臣と、お揃いの香水。
あの店員の口車にうまく乗せられたような気もするけれど。それよりも、そわそわした気恥ずかしさと、それを上回る嬉しさの方が大きくて。
「つけてよ、志麻」
「こ、ここで?」
駅ビルを出て、裏手にある公園。表通りと違ってここは、人気がない。
ベンチに腰を下ろした春臣は、そこでようやくあたしの手を放し、自分の手首を鼻に当てた。
「俺はさっきテスター使った。だから志麻も、つけて」
「ま、待ってて」
ショップ袋を開けて、香水の箱を開封する。
頼まれて、断れないのはあたしの悪い癖だ。そのいい例が、ノート。
「さっきの店員が言ってたけど」
いそいそとキャップを開けながらあたしは、春臣の隣に座った。
ショップ袋ひとつ分の、境界線を作って。