恋人境界線

やり場に困って、流れる窓の外の風景に目線を移す。


「いいの、って。なにが」


片想いしてる側からしたら、二人の仲睦まじい光景なんて見たくはないけれど。
それでも春臣の態度は、冷たいと思った。


「あんな邪険にするような言い方して…」


目的地まで、あと一時間足らず。イベントサークルの夏休み旅行。
住む町を離れても、風景はさほど変わりなかった。次の町に入れば、すぐに、海は見えてくる。


「だって今は、志麻のノートのが大事だし」
「…っ」


ノート、か。
そうだよね、大事なのは、ノート。あたしたちが話したり、二人で会ったりするのには、いつも必ず理由がある。
ただ、好きだからじゃだめなんだ。

あたしたちには、いつのまにか構築された、目には見えないけど確かな、友達というボーダーラインが、あるから。


「春臣ー、せっかくのバケーションなのに勉強かよ。真面目ぶんな」


後ろから、シートに両腕を乗せて顔を覗かせた真島くんが、春臣の頭を拳でこづく。


「うるせ。後で貸せっつってもお前には貸さねえよ」
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