恋人境界線
挑発するような眼差しを、こちらに向ける。きつく、研ぎ澄まされた視線。
まともに見入っていたら、冴えた瞳の中に狼狽するあたしが映った。
「へ、変態…!」
「なんとでも。俺やらしーから。」
…開き直られても。
「ほら、貸して」あたしの香水を優しく奪った春臣は、手を取り、ちょうど脈打つ部分に吹き掛けた。
「まずは。主張しすぎないように、首筋だろ」
春臣が、あたしの手を操る。
ほんのりと甘い香りが周囲の風に同化しながら、あたしの首筋に行き届く。
「香りは下から上がってくるから、足首にも」
屈んで、アキレス腱の周辺にも擦り付けた。
「ちょ…っ、自分でやるから」
漂う柔らかい香りと、春臣の生温いぬくもりが解き放つ、魔法にかかる。
手が、自分のものじゃないみたいに動く。
「それから、」と言い置いて、改めてあたしと向き合う。「温かい、胸元。」
シャツワンピの一番上のボタンに手を掛けた。
「っ!春臣っ、」
とっさにその手を制したとき。
一旦途切れたバイブ音が、再度鳴り出した。