恋人境界線

「、え?」
「いつも一人で、平気な顔して澄ましてる」
「そ、そうかな…」


確かにあたしは、感情が顔に出にくい。
小さい頃は、笑ったり泣いたり忙しい子供だったけど。
いつしか、感情を押し殺し、我慢する方法を身に付けてしまった。それが、誰も傷付かずに済む唯一の手段だと、思っていたから。


「それが、クールだ綺麗だ言う男がサークルの中にどんだけいるか。お前、わかってんの?」


…綺麗?
言われ慣れない単語に、言葉を失う。
大学に入学してからは、近寄りがたいと、耳にタコが出来るほど言われたものだけど。


「それをいちいち、耳にするだけで。俺が、」口をつぐむあたしを、ベンチを跨いで真向きに座り直した春臣が、神妙な面持ちで見つめた。「俺がどんだけ、苛々するか」


喉に力をこめた、厳しい口調。春臣は眉を下げ、顔を反らした。

な、なに――?


「は、春…?」
「そんな男ら、ひとまとめにして消し去りてぇんだよ」


秋風が、春臣の茶色い髪をそよそよと揺らす。


「志麻を独占したくて、理性失いそうになる」


追いかけて、頬を撫でて、過ぎてゆく。
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