恋人境界線
「あーっ。ガキくせーな俺」
たった今、過ぎていった風に乱された髪を、更に手で掻き乱す。
また、風が起きる。さっきよりも、もっと強かった、と。
「妬くとか、勝手だよな」
あたしは過ぎてから、気付いた。
「お前の彼氏でも、ないのに」
「…っ、」
辺りは真っ暗で、春臣の顔も翳りがかって見えた。あたしは訳もわからず、泣きそうだった。
雲の流れが速い。
色があるならおそらく灰色を纏った風が、公園の落葉松の葉を翻す音が、ざわざわと大きい。
「あ、あたし……」
天気予報は、あながち間違っちゃいなかったのかもしれない。
嵐がくるのかもしれない。
強い風に消されないように、しっかりと目を見開いて春臣を見る。
細かく首を曲げた春臣は、あたしの声に、耳を澄ませてくれているようだった。
「あ、あたしだって、いつも平気なわけじゃないわ…っ」
顔に出ないのは、ひとりでに身に付いた、傷付けない術だった。
春臣や、歴代の彼女。
なにより、あたし自身を。
「他の女の人と、話してるだけで、嫌、だもん…」