恋人境界線
今となっては。
数時間前までの幸せな感情までも、風にもってかれないうちに去ろう。
そう、思ったときだった。
「ヤバい。まともにくらったわ、今」
俯き加減で春臣は、目だけをこちらに向けた。
上目遣いに、無性にドキッとする。
「そんな無防備な目ぇされると、」
そう思ったのは、あたしだけじゃなかった。
突然暗闇から浮き上がってきた手に、両肩を掴まれた。
「さすがの俺も、我慢効かないんですけど」
瞬きする暇もなかった。
春臣が身を乗り出したから風が起きた、と思ったら、唇は既に、触れていた。
「――っんん…」
強く押し付けられて、あたしはただされるがままに、身を任す。
角度が変わって柔らかい感触に酔い痴れて、名残惜しく、放される。
間近で見る春臣の眼差しは、切なくなるほど優しかった。
「こ、こんなところで…っ」
心地よさに溺れてたことが恥ずかしくて、残る一つまみの理性があたしにそう言わせた。
人差し指であたしの唇をなぞった春臣はさもおかしそうに、ふっと笑う。
「こうなったら、もっとするんだから別にいいだろ」