恋人境界線
ひひっと笑った春臣に、真島くんが、「ひでえよ春臣。俺も綿谷のノート見てえよ」わざと泣きそうな声を上げる。
あたしのノートなんて、そんな重宝されるまでもないいたって普通のノートなのに。
「終わったら貸すね、真島くん」
「サンキュ!助かるわー。俺民法ほとんど寝」
「――だめ。」
真島くんの言葉を遮った低い声に、「は?」あたしは耳を疑った。
真島くんも呆気にとられた顔つきで、ダメ出しをした張本人を見ている。
「なしなし!もうノートの話は終わりっ!!」
書きかけのノートを閉じた春臣の語尾が飛び跳ねた。
春臣はもう笑っていたけれど、真島くんは釈然としない表情で、自分の席に身を隠した。
「…なに意地悪言ってんの?」
今のはまるで、あたしのノートを他の人には貸したくない、子供みたいなわがままのよう。
さっきの、薫に対してだって。
「志麻は、」言い掛けた春臣が、窓の外を見る。
使い捨てのように風景は切り取られ、すぐに新しいそれに変わる。
もう、元には戻れないと、あたしにしらしめるように。