恋人境界線
痛いくらいギュッと瞼を閉じてから、さも眩しさに潤んだかのように目を、春臣に向ける。
「体、平気?」
「ん…」
「見てみ、外。快晴」
「……」
「昨日までの嵐が嘘みてーだな」
ほんと、嘘みたい。
こんな仕打ちをされても、まだこの男が好きだなんて。
「食料が全然ないんだよね」
言いながら、春臣は昨日のとは違うシャツを、素肌の上からぞんざいに羽織った。
あたしの服は、ハンガーにかけられ、カーテンのレールにぶら下がっている。
「適当になんか買って来るから、待ってて」
寝たままのあたしの頬に、キスを落とす。
家や車の鍵が一緒になったチェーンをじゃらじゃらとデニムのポケットに詰めた、春臣の背中が遠ざかってしまう直前。
「コンビニ。近いからすぐ戻ってくるよ?」
あたしは春臣の腕を、掴んでいた。
そんなあたしに、子供に向けるような柔らかい眼差しを送り、首を傾げる。
「あ。俺にはあるわ」
「…え?」
「食うもの。目の前に」
「…な、に言ってんの」
いたずらっ子みたいに鼻に皺を寄せて、春臣が笑う。