恋人境界線
「帰ったら、ゆっくりな」
その言葉を最後に、春臣は部屋を出て行った。
一度だけで、よかった。
このまま曖昧な関係を続けたって、傷付く人を増やすだけ。「……」
ベッドの中からのそのそと起き上がると、スエットを脱いで乾いた服に着替える。湿った雨の匂いがした。
スエットを丁寧に畳んでベッドの上に置くと、あたしは身なりなど構わずに、部屋を出た。
髪がボサボサでも、ノーメイクでも、気にしない。
「…っ…」
5年間抱き続けてきた想いを失ったんだ。
これからはなにに心踊らせて、なにに喜んでなにを欲して、誰を糧に、生きていけばいいの?
「――っう、」
見上げれば、憎いくらいの青空。目に凍みて、余計に泣けてくる。
追い掛けて追い掛けて、とどかない人。
すれ違ってすれ違って、交わらない恋。
幸せは、目にみえないというけれど。
痛みさえも形には、残らないけれど。
『痛くして、ごめん』
抱かれたこと、声、ぬくもり。眠り、嘘、すべてを。
思い出に変えられる日がいつか、来るのかな――