恋人境界線
話題が冊子に限ったことではないことくらい、易々とわかった。
あたしにとってはもう済んだことだと言えても、これからも春臣の彼女であり続ける薫にとっては、重要であることも。
「……ずっと、好きだったの。春臣のこと」
「うん。」
「薫と付き合う前。高校のときから、ずっと」
「好きに年数なんて関係ない」
「…っ」
俯いて、足元を見る。
至極当然なことを言われて言葉を失う。
「ねちねち片想いしてさ、悲劇な自分に酔ってたんでしょ?」
「…そ、そんな、」
「殊勝だよね!あたしに気ぃ遣ってくれて」
興奮を抑えきれない薫の声が、早朝の講義室に響く。
依然下を見つめていたら、いかにも手作りで粗忽な、冊子が目に入った。
確かに、手を抜いた。
合理良く事が運ぶことが、楽だとも思う。
それでも。
『帰ったら、ゆっくりな』
それが二度と、果たされない約束であっても。
ひとつだけ譲れない想いが、確かにこの胸の中に、あった。
「あたしは志麻とは違う。春臣にはいつも、本気でぶつかってった」
「、薫…」
「誕生日だけでも、一晩でももう一度一緒に過ごしたいって、頼んだんだ」