恋人境界線

春に生まれた人は、暖かい心を持ってるんだよ――と言ったら、俺は春生まれじゃない、と返された。
じゃあ……、どうして?


「小春日和の“春”?」
「それも違うんだな。」
「名前と生まれた季節は関係ないの?」
「まあ、無いわけじゃないけど」


春臣は頭の後ろで腕を組んで、ベッドにごろんと寝そべった。
ヒーターの、設定温度をゆうに越えた室内は、南国の植物でさえ難なく育てられそうなくらい、暖まりきっている。

あたしは最近、日本語を覚えたての幼児みたいに、「どうして?」「なんで?」を口にする。
それは、春臣のことに対してだけ現れる現象なのだけれど、あたしが「どうして?」としか言えない催眠術にでも掛けられたかのように連呼しても、春臣は嫌な顔ひとつせずあたしに付き合ってくれる。


「もう降参。教えてよ」


机の上にうなだれたあたしは、上目遣いで春臣を見上げた。


「降参?」


にっと口角を釣り上げた春臣は、得意顔で笑う。「春臣の“春”は、新春の“春”だよ」
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