恋人境界線
あたしは特に、下半身をあまり動かさないように注意しながら、春臣の首に両手を回す。けれど。
たぶん、それは、見透かされているのね。あたしが意識していることを、知っているのだ。
なぜならあたしの動き、ひとつひとつを、春臣は目ばかりか、動物みたいに鼻まで効かせて観察しているから。
あたしの呼吸が乱れたり、躊躇ったり俯いたりするそのときを、抜け目なく攻めてくる。
――例えば、そう。
あたしは知ってる。
抱き締められたときのぬくもりや、キスするときの顔の角度。唇が触れ合う瞬間まで決して瞼を閉じないことを。
深いキスの味。
鼻から抜ける心地よさ。
「ん……っ、暑ぃ」
ああ、体が溶けてしまいそう。
室内の暑さとキスから灯るぬくもりに、体温は一気に上昇。
「暑いなら、脱ぐ?」
名残惜しくも唇を離した春臣は、片方の眉にアクセントを付けた。
「…それが狙いだったのね」
「うそうそ、冗談。」
チュッと音を立てて口付けると、春臣はさっきまで寝ていたベッドの上に手を馳せた。