恋人境界線
どうやら、ヒーターのリモコンを探しているらしい。きっと布団の中に埋もれているのだろう。いっそ立ち上がって、直接消した方が早いんじゃないか?
そう思って、腰を上げようとしたとき。
浮き掛けたあたしの体は、すぐにまた元の位置に戻された。春臣の大きな手のひらが、あたしのウエストをがっしり掴んでいる。
「行くな。ここにいろよ」
今までに聞いたことのない、懇願するような甘い声。耳を疑った。
「…っ、春臣?」
「や、なんでもない。ごめん、忘れて」
顔を背けた春臣は、ばつが悪そうに頭を掻く。「今のは相当ヤバかったよな。ガキみてー。俺、暑さで頭やられたのかも」
そんなこと言わないでよ、もっとあたしを独占してよ――
喉まで出かかった言葉を寸でのところで飲み込む。「春、」代わりに名前を呼ぼうと、目線を合わせれば。
すがるような目をした相手と、避けようもなく目が合った。
「やっぱやめた。格好つけるのやめるわ、俺」
「えっ?」
「頭やられたなんて、嘘。」
「う、そ?」