恋人境界線
春臣の言葉に、あたしはただ頭を捻る。
すると相手は、なにか決意したような強い力を込めた瞳を、一心にあたしに浴びせた。
「そう。本当は志麻のこと、閉じ込めておきたい」
言い切る前に。ぎゅうっときつく抱き締められて、胸が苦しい。
ねえ、春臣?
あたしだって、どこにも行きたくないよ。この胸に、永遠に閉じ込めていて欲しいよ。
ずっとずっと欲しては、手に入らないと諦めていた人が、あたしが数歩先のヒーターに行くだけで寂しいと思ってくれる。
そんなの、なんだかせつないよ。
嬉しくて、体が勝手に震えるよ。
「……っ、どうして?」
あたしの口から出た口癖に、「また、“どうして?”」春臣は笑いを帯びた声で答えた。
体を引き離し、あたしの鼻の頭を指先で優しく撫でる。「知りたい?」
頷くのも、刹那。
「志麻のそういう可愛いとこ、他の男に知られたくないからだよ」
幸せ過ぎて、すぐに怖くなる。
今まで臆病だったせいで、この暖かさに慣れない。
この部屋は暖かすぎる。
春臣は、暖かすぎるよ。