恋人境界線
足がすくんだみたいに、ただ立ち尽くしていたあたしは、たった今レジを終えたカップルを目で追い続けていたことに気付いて軽く首を振った。
今のあたしは傍から見たら、物欲しそうな目をした大層怪しい女だろう。
気持ちを切り替えて、小物が並んだ硝子棚の前に立つ。時計、財布、アクセサリー。マフラーに帽子。綺麗に陳列された中で、ひときわ目を奪われるものがあった。
レザーも暖かそうだけど、カシミアは肌触りがよくて、渋いグレーの色みも素敵。なによりも、寒がりなあの人にはぴったり。
柔らかい手袋を両手で包み込むように持つと、レジに直行。
「こちらはご自宅用ですか?」
店員さんの問い掛けに応じるまで、時差があった。
「あ、いえ。贈り物、です」
「包装いたしますので少々お待ちください」
いちいちプレゼントの申告するだけで、こんなに落ち着かない、なんて。あたしも大概大げさな奴だ。
カシミアの手袋は、透明の袋に入れられる。あたしの目の前で、春臣が包装を解いたときの光景が、頭の中でひとりでに想像された。