恋人境界線

本当は、一日中二人きりで祝いたかった誕生日。
大切にしたかったイベントなのに。

もう一度、春臣の姿を探そうとしたけれど、何度も見たら不審がられるかと思って我慢した。

プレゼントの手袋も持って来た。通路を占領した大きな旅行カバンを凝視する。決して綺麗にラッピングされた手袋が、透けて見えるわけじゃないけれど。


「志麻、酔ってない?」


頭の上から声が降ってきて、あたしは慌てて顔を上げた。
そこに見えるのは、さっきからあたしが盗み見していた、その人。お茶を差し出されて、受け取った。「ありがとう」

欲していた極上の笑顔をふんだんに向けられれば、さっきまでの不満に満ちていた気持ちが、一気に吹き飛んでしまう。


「ほい、静佳にも」
「あたしはついでですかい」
「これ、上げるか?」


静佳を無視して春臣が指差したのは、通路に置いた旅行カバン。
お願い、とあたしが頷くと、春臣はそれを軽々と持ち上げて、荷棚に置いた。


「でかい荷物だな。志麻もそりとか持ってきちゃった?」
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