恋人境界線
「っ違うし!」
おもしろがるような目で見る春臣を睨み見る。
すると、お揃いの香水の匂いがふんわりと寄り添って、より深い香りになった。
「そんな可愛い顔しないの」
耳元に接近したかと思ったら、息吐く間もない早業で、耳たぶに熱が灯る。
直接触れられたわけじゃないのに。声だけで欲情する、だなんて。
ああ、なんてはしたない女なの。
あたしはいつからこんな浅ましい体になったのだろう。
「その上目遣い、いろいろヤバい」
恥ずかしくて顔を背けたあたしを見て、くすりと唇から笑いを溢した春臣は、すっと去って行った。
ちょうど、お茶のペットボトルを開けていた静佳にはたぶん聞こえなかったし、あたしの異変も気付かれていないだろう。
けれど、斜め前の席から、視線が向けられていた。そこに座っていたのは、薫だった。
「寒ーっ!」
スキー場の入り口には、ここのマスコットなのか、大きなペンギンの雪像があった。見渡す限り、360度白銀の世界。
真新しい粉雪がゲレンデに積もって、そこにスキーヤーたちが細長い足跡を刻んでいる。