恋人境界線
「…っ、あたし、おでん買ってくる!」
言うが早いか、あたしはその場から駆け出していた。
こんな風に恋人同士としてからかわれることに、全然慣れないんだもの。
「なんだよ、色気がねぇな」
「そうだそうだ、おでんで暖取れバカップルが」
という春臣と真島くんの声を背中に受けて、出店に向かってまっしぐら。
途中、また雪に滑ってバランスを崩しながらも、おでん売場に到着。
「ありがとうございまーす」
いい匂いがする容器を落とさないように両手で持って、足元に注意する。
慎重に足を進めて、二人の元に背後から近寄った。
「……この……付き合っ………」
春臣の声。
不意に耳に入った“付き合う”というワードに、つい聞き耳を立てる。
「志麻を傷………いっ……」
…志麻を傷?
それ以降は、北風に遮られてよく聞き取れなかった。あたしは更に二人に数歩近付いて、耳を澄ませる。
「自信がないんだ、俺」
今度はちゃんと、聞き取れた。一字一句、はっきりと。「…っ…」自信がない、と。