恋人境界線
あたしと付き合う自信がない、ってこと?傷付けるから?
そうなの?ねえ、春臣――
「――志麻?お帰り」
心の中での問い掛けが聞こえたかのように、春臣が振り返る。
男の子は、なにも、無かったかのように。澄ました顔で涼しげに、あたしに笑い掛ける。
あたしがどれだけ、動揺していようとも。
危うくおでんを落としそうになって、気がついた。バッグがない。中にはプレゼントが入ってたのに。
「志麻?なんか顔色悪くない?」
「あたし、バッグが……」
「バッグ?」
「か、買った店に忘れた、のかも」
頼りない声で呟くと、おでんを真島くんに押し付けて、踵を返す。「探してくるっ」
春臣の顔が、見れない。
あたしには、受け入れられない。
「おい待て、志麻!」
呼び止める声を聞くつもりなど毛頭なく、あたしは来た道を戻っていた。
『そう。本当は志麻のこと、閉じ込めておきたい』
ねえ、春臣
抜け出すのは、こんなにも簡単なのね。あなたの胸の中から。
離ればなれになるのは、呆気ないほど容易で、笑えてくるよ。