恋人境界線

泣けてくるよ。
しっかりその腕に閉じ込めてくれないのは、春臣の方じゃない。


『うそうそ、冗談。』


どうしてそんな風に言うの?いつだって、あたしをその気にさせては突き放す。
こんな熱っぽい体にしておいて。手酷い仕打ち。あんまりだわ。


『自信がないんだ、俺』


薫のこと、真島くんのことを。気にして、負い目があるってこと?
あたしだけが春臣との恋に、浮かれてたみたいだね。

雪空が薄暗い幕に覆われて、降り積もる雪の粒が一回り大きくなってきた。

雪が溶けて、髪が濡れる。あたしの心はこんなにも凍えきってしまったのに、まだこの世には冷たいものがあるのだと、あたしに知らしめるかのよう。

ニット帽でも被っておけばよかった、なんて後悔。今更で。
この状況で、自分の力ではなく、誰かからの暖かさを求めるあたしは。特大の雪だるまが降ってきても文句は言えない。大バカだ。

気が付けば、涙で潤む視界の中に、ペンギンの雪像が見えた。
おでん屋なんてとうに過ぎ、歩きすぎてしまったらしい。
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