恋人境界線
「なに泣きそうな顔してんの?転んだくらいで」
固く強張った表情で、あたしを見下ろす眼差し。
「いつも、そんな顔を春臣に向けてるの?」
「…へ……?」
「春臣は、あんたを選んだのにね」
あたしは目を、直視することができなくて、薫が差し伸べた手のひらばかりを見つめていた。
その手は、空から受けた雪を難なく溶かす。とてもとても、暖かそうで。
頬を伝うあたしの涙までも、弾けて溶かしそうだ。
「あんたがそうやって思い詰めた顔してたら、春臣が可哀想だわ」
「薫……っ、」
どんな顔をしてたか。
あたしにもわからなくて。だけど、ひとつだけわかることがある。
「あ、あたし…、」
春臣のせいにしてるけど、自信がないのはあたしの方だ。
イベントにこだわるのも、体の繋がりを求めるのも。恋人である証が欲しいからで。
それがなきゃ、不安なの。今まで自分にも隠していたけど。あたしも、いつか、何事も無かったかのように。自然に境界線が出来上がって、元の友達に戻る日が訪れるんじゃないか、って。