カテキョ。
先生はあたしを無視するつもりなのだろうかという疑問を抱いたあたしはもう一度質問を繰り返した。

「先生……。どうしてサキなんですか？」

先生は、重いため息をついた。

そして少し考えて、ポツリと言った。

「どうしてだろうな。俺も分からない。俺は、あれからもずっと知佳を待っていたんだけどな。」


あたしは何も言えなかった。

先生はあたしの気持ちを分かっていて待っていてくれたのだということに、その時初めて気付いた。

気付いた時、嬉しい気持ちや後悔の気持ち、いろいろな気持ちが複雑に入り混じって泣きそうになった。

でも先生にまた泣き虫だと思われたくなかったから必死で涙をこらえた。

「ごめんなさい。先生。」
あたしは先生の背中に向かって、涙をこらえてそう言う事しかできなかった。

先生が振り返ってこちらを見たら、涙だけでなく全ての気持ちが溢れてしまいそうだった。

< 216 / 339 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop