カテキョ。

「びっくりした。…お久しぶりです。こんばんは」

どうにか言葉にした、挨拶以外に何を話せばよいのか分からず、黙っていると


「今、仕事終わって帰るところ。知佳の携帯電話、番号変わっていなくて良かった。」


「今日は、ありがとう。おかげでたくさんいいものが撮れたよ。編集も大変だけど…。」


そう言って笑う先生の声に、自分の感情や胸の鼓動を抑えるのに必死だった。


先生は既婚者だということを何度も言い聞かせた。


「こちらこそ、ありがとうございました。」

「そうそう、知佳。お前、先生って言おうとしていたでしょ。」

「いいえ、村上さん。」

からかう先生の言葉に冗談で返したけれど、自分の気持ちを抑えることが出来そうにないあたしは、

「あたしなんかとこんな電話してないで、早く奥さんの所へ帰ってください。」

真剣に、そしてわざとらしく冷たく伝えた。


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