カテキョ。

 
沈黙を破ったのは、またしてもヒロアキだった。
あたしは何も言えなかった。

何も言えなかったのではない。

何と言っていいのか、あたしの言葉の辞書の中に適切なものがなかったのだった。


「知佳のことが気になってる。付き合って欲しい。」

ヒロアキは、そう静かに言った。

あたしはコクリとゆっくり頷いた。

そうすることしか出来なかった。



あたし達はそれからお互い顔を見つめて思わず2人で笑ってしまった。

二人ともうさぎの眼をしていたからだ。
 

そして静かにキスをした。
それから、堰を切ったように何度も何度もキスをした。

キスをしながら二人で泣いた。

ヒロアキとの初めてのキスは温かな涙の味がした。
 
< 36 / 339 >

この作品をシェア

pagetop