芹沢くんの秘密。
「…これ。今日返却期限だったから、返す」
そう言って差し出された数冊の本。
…なんだ。これを返すためにわざわざ息切れするまで走ってきたのか。
「そんな、少しぐらい遅れてもよかったのに。…でも、ありがとう」
真面目なんだなぁ。
図書室の本なんて、期限二週間なのに何ヶ月も返しに来ないヤツいっぱいいるのにね。
「…別に」
「…ふふ。ていうか、顔の。大丈夫?」
頬に貼ってある絆創膏のことを言うと、芹沢くんはすこし顔をこわばらせた。
…触れてはいけないことだっただろうか。
「これは…ちょっと、猫に引っ掻かれただけ」
「あ、やっぱり!そんな感じかなって思ってたんだよね〜」
嘘だ。
目が泳いでる。
わたし、昔から嘘を見破るのは得意だったんだから。
でも、深追いはできなかった。
芹沢くんが顔で『探るな』と言っているから。
それに、わたしたちは恋人でも友達でもないんだから。
なんだか、今日は久々に切ない気持ちになった。