芹沢くんの秘密。
5月の空が、オレンジ色に染まってる。
外からは、運動部員のかけ声や、カラスの鳴き声がきこえてくる。
キラキラとした光が差し込む人のいない廊下を、わたしは足取り軽く歩いていた。
向かう先は、図書室。
カラカラと音を立てて、図書室の少しさびれた木製の引き戸をあける。
今はまだ早いからか、まばらに人がいる。
わたしはとりあえずカウンターに座って、当番の仕事にとりかかることにした。
ちら、と左端の奥の、読書スペースをみてみる。
(……いた、)
ちょっと遠いけど、「芹沢くん」の姿が見えた。
漆黒の髪で、ちょっと猫っ毛。
下を向いてるから、前髪が被って顔は見えないけれど。
金曜日の放課後、彼はいつもそこで本を読んでいる。
台風だとか、非常時のとき以外はたいていいる。
そして、図書室開放時間の10分前くらいになると、静かに出ていく。
それが「芹沢くん」。
本の貸出のときに、学生証をみて初めてその名前を知った。
下の名前は読めなかった。