芹沢くんの秘密。
(萌に怒られる〜)
サバサバした萌のことだから、『なにうじうじしてんのよ!』ってお怒りを受けるだろう。
でも、そんな萌が大好きだ。
♪〜♪〜♪〜
閉館10分前になると、音楽がなって、生徒に閉館を知らせてくれる。
きっと、そろそろ芹沢くんも帰るんだろうな。
後悔とともに寂しさもこみ上げてくる。
「………の」
「はぁ……」
「あの、すいません」
「は、はいっ!!?」
(せ、芹沢くんだ!!!)
色々考えててボーッとしてて全然気付かなかった!
ちょっと困ったような顔をしてる芹沢くん。
これは、初めて見る表情だ。
「これ、借りたいんだけど…」
す、と差し出してきたのは数冊の本だった。
どれも難しそうで、到底わたしには理解できなさそうなのばっか。
「あ…ごめんね、ボーッとしてて。学生証出してもらえますか?」
「はい。」
芹沢くん。二年生で同級生なとこまではわかった。相変わらず下の名前は読めない。
証明写真、ぶすっとしてるところが芹沢くんっぽいと思った。
っぽいもなにも、わたし芹沢くんのこと何も知らないんだけどね。
『今日こそ話しかけるんだよっ!』
萌の声が頭の中で繰り返される。
これ、もしかしてチャンスじゃ…
ええい、どうにでもなれ!!
「あの、」
芹沢くんはちょっと驚いたような顔をした。
「?」
「ずっと気になってたんだけど…下の名前、なんて読むの?」
言っちゃった…!
引かれないかな…
芹沢くんは少しの間驚いた顔をしていたけど、その後いつもの無表情に戻った。
「…なお。芹沢南朋」
「……なお、」
「じゃあね、川瀬さん」
最後の一瞬。
最後のほんの一瞬だけ、にこ、と口角を上げてそう告げて彼は去っていった。