偽りの翼Ⅰ
「ひでえ内容だな。」
初めて聞いたニュースだな。
「だよな。この女の子さ、生きてたら俺らと同い年だったんだぜ?ひどいよな」
12年前に起きた事件。
当時5歳。
俺らと同い年…
この女の子が殺害されているとき、5歳の俺は何をしていただろうか。
「ああ。」
幸せに、お袋とか親父とかと笑い合っていたのだろうか。
俺のお袋は一昨年癌で亡くなった。
親父は、俺がまだ小さい頃海外へ行ったとお袋に聞いた。
そんな親父はお袋の葬式にも顔を出さなかった。
もう、きっと、俺達に関わる気がないんだろう…。頭の片隅で親父が帰ってくることを期待した俺はその時絶望感を抱いた。
「そういえばよ、月姫になった花恋ちゃん?とさ、千尋は仲いいのか?」
花恋ちゃん?
「いや、特に。料理教えてるだけだよ」
お袋が唯一俺に残してくれた大切な料理。
小さい頃から俺をここまで育ててくれたあの味を花恋ちゃんにも教えてあげたくて。
「ふーん、千尋が女にかまうなんて珍しいよな」