偽りの翼Ⅰ
コツ、コツ、コツ…
私の階段を登る音だけが響く。
屋上で何かをしたいわけじゃない。
ただ、風にあたりたい。
嫌なこと全部忘れて、昔の私に戻りたかった。
桜風と出会ったあの頃…。綺麗な心だった頃に…。
透を愛していた、あの日々に。
キイッ
重たい扉を開いた。
今日は晴天。
こんな日はお母さんとお父さんが亡くなった日を思い出す。
お母さん…。お父さん…。
こんな娘でごめんね。
毎晩、喧嘩を繰り返して。人をボコボコにして。
病院送りにして…。
「花恋!って、どうした??お前、」
裕翔が、いきなり駆け寄ってきた。
「どうして、泣いてんだ…?」
ああ、私泣いてるんだ。なんでかな。
「ごめっ…ゆ、と…。」
声もまともに出ない。
「泣け…。好きなだけ泣いとけ。理由はまだ聞かねえから。」
裕翔は優しい。
こんな私にそんな言葉をかけてくれる。
会ったばかりなのに。
ごめんね、裕翔。今だけは甘えさせてね。