夢一夜・・・十語り
夢二夜・・・なつかしき日よ、我をおそれることなかれ
夢を見た。
場所は懐かしい高校の教室。
多分、昼休み。
なぜかそこにいる子供たちは、まるで時間が止まっているかのように静止していた。
箸を口運ぼうとしている子。
ものさしと丸めた靴下を使って野球をしているらしい男子たち。
五時間目に数学の板書を当てられているのだろう、チョークを手にして黒板の前に立つ女の子。
わたしはその女の子に近づいて、顔を覗き込んだ。
………やっぱり。
高校生のわたしだ。
自分ではそんなに変わったつもりはなかったのだが、黒板の前に立つ彼女はわたしより幼くて、わたしよりつまらなそうな顔をしていた。
あの子は……桜くん?
隅のほうの席で一人本を読んでる男の子。
無表情だが、今にもふわりと微笑みそうな優しい口元が印象的だ。
三年の時、席が隣でよく話していた。
おもに英語のわからないところを教えてもらっていたのだけれど。
「……へーんなの」
止まった世界、子供のわたし。
見覚えのある顔、顔、顔。
面白いのは、クラスメートの雰囲気が記憶にあるのよりずっとこどもっぽいことだ。
もっと大人だと思ってた。
思ってただけで、その実わたしたちは、あの頃確かに幼かったのだろう。
「お前、何をしている」
上擦った声が聞こえて、はっと前の方の扉に目をやると、三年生の時の担任が驚いた顔で突っ立っていた。
「一ノ目先生?」
どうやら彼は動けるらしい。
こんにちは、お久しぶりです。
と声をかけようと近づくと、先生はずざざっと音がしそうな勢いで後ずさった。
「く、来るな」
まるでわたしを怖がっているような表情。
すこし悲しくなった。
一ノ目先生はわたしが出会った先生たちの中で一番仲良くなった先生だったから。
「先生」
呼びかけると、ひっと先生が喉を鳴らした。
わたしはいつのまにか手に包丁を持っていた。
目が覚めた。
ぱちぱちと目をしばたいた後、可笑しくってあはは、と笑ってしまった。
おかしな夢だ。
ベッドから降りて、鏡台において置いたハガキを手に取る。
高校の同窓会を知らせるハガキだ。
これが頭のどこかに引っかかっていて、あんな夢を見たのだろうか。
(先生も、くるのかなあ)
夢の中の怯えた顔が頭をよぎる。
わたしの手には包丁。
やだなあ、深層心理ってわけが分からない。
うーん、とのびをして服をとりだすべく箪笥に手をかけた。
中から出した服を見て首をかしげる。
(夢の中でこれ着てたな)
濃い赤のワンピース。
わたしのお気に入り。
しばし、ぼおっとなってわたしはあわてて時計を見た。
ああ、大丈夫。
まだまだ余裕だ。
安堵の息を吐いて、わたしはその赤を身に纏った。