夢一夜・・・十語り
夢五夜・・・蝶々
「世の中さ、馬鹿ばっかなのはなんで何だ」
世の中を語りたがるお年頃らしい知り合いの男が言った。
氷が溶けて薄くなったジンジャーエールをさっきからずっとかき混ぜているのは何でなんだ?
「そう思うからそう見えるだけなんじゃないか」
適当なことを適当な調子で返せば、男ーー坂島は猫目をすっとすがめた。
その間も、グラスをかき混ぜる手は休めない。
「金があれば幸せか? 善人ヅラした金持ちは何で豪邸に住むのをやめない。 政治家の汚職事件が絶えないのはなぜだ? はじめは誰だって信念を持ってるはずなのに」
「金があれば広い家に住みたいと思うのはある意味人情だろう。政治家だって、何も全員が汚いわけじゃない。汚いことしたやつだって、信念がなくなったわけじゃないはずだ。お金大好きと『お国の為』は同居可能さ」
大して頭もはたらかせず、つらつらと言った言葉は、我ながら良い人感満載だった。
うん、いい感じ。テキトーにいい人。
これが僕の信念。
坂島のジンジャーエールはいよいよ薄くなり、見た目にもまずそうに見えたが、手は止まらない。
「あのさぁ」
「うん?」
「さっきから何でずっとかき混ぜてんの」
金や政治よりずっと気になるんだが。
坂島は約30分ぶりくらいに笑顔を見せた。
愛嬌のある笑顔だ。
偏見に満ちた議論をしょっちゅう繰り出す男には見えない。
「クセ。目の前にグラスがあるとかき混ぜたくなる」
「変なクセ」
「そうかな」
世の中を語りたがるお年頃らしい知り合いの男が言った。
氷が溶けて薄くなったジンジャーエールをさっきからずっとかき混ぜているのは何でなんだ?
「そう思うからそう見えるだけなんじゃないか」
適当なことを適当な調子で返せば、男ーー坂島は猫目をすっとすがめた。
その間も、グラスをかき混ぜる手は休めない。
「金があれば幸せか? 善人ヅラした金持ちは何で豪邸に住むのをやめない。 政治家の汚職事件が絶えないのはなぜだ? はじめは誰だって信念を持ってるはずなのに」
「金があれば広い家に住みたいと思うのはある意味人情だろう。政治家だって、何も全員が汚いわけじゃない。汚いことしたやつだって、信念がなくなったわけじゃないはずだ。お金大好きと『お国の為』は同居可能さ」
大して頭もはたらかせず、つらつらと言った言葉は、我ながら良い人感満載だった。
うん、いい感じ。テキトーにいい人。
これが僕の信念。
坂島のジンジャーエールはいよいよ薄くなり、見た目にもまずそうに見えたが、手は止まらない。
「あのさぁ」
「うん?」
「さっきから何でずっとかき混ぜてんの」
金や政治よりずっと気になるんだが。
坂島は約30分ぶりくらいに笑顔を見せた。
愛嬌のある笑顔だ。
偏見に満ちた議論をしょっちゅう繰り出す男には見えない。
「クセ。目の前にグラスがあるとかき混ぜたくなる」
「変なクセ」
「そうかな」