椎名くんの進級
「また喧嘩してたな。」
「痴話げんかだけどな。」
「泣いてなかった?」
「泣いてた。」
「ああやって、しょっちゅう泣かされてるのかな。」
「かもな。」
「あんなやつのドコが良いんだろうな。」

 それは、誰もが思っている疑問だが、答えもまた明らかだった。神井先輩の才能、根性、自信、決断力、リーダーシップ、どれひとつ、俺達に勝てるものはない。熱量が圧倒的に違う。かろうじて容姿なら互角かもしれないが、大野先輩はそんなものは基準にしない。だから彼女は素敵なのだ。

「大丈夫?」
高橋が椎名に声をかけた。
「あぁ。」
椎名が力なく答え、やがてポツリと言った。
「告白なんかしても無駄かな。」
鼻をすする。
「無駄だな。」
「先輩困るだろうし。」
「そうだな。」
「へっ。分かってたけどな。」
「そうだな。」
俺達はみな無言で、誰からとも無く帰り支度をして部室を後にした。
< 18 / 23 >

この作品をシェア

pagetop