椎名くんの進級

「あのさ。」
「なんだ？」
「最後に、こう、ぎゅっと抱き締めてみたりしちゃだめかな？」
その場にいた全員が、驚いて椎名の方をみた。

「そりゃまずいだろ。」
「また泣かせる気かよ。」
「そうか。そうだよなぁ。」

　椎名の気持ちは分からないでも無い。大野先輩の無防備な動きと無邪気な笑顔に、俺達は健全な男子高校生としての純情をさんざん弄ばれて来た。

　目の前で揺れる尻、いきなり肩に触れて来る指先、ぶつかりそうになる額、甘い吐息、細い肩、白く伸びた首筋。凛とした横顔、目が合うと人懐っこい笑顔で笑う。一度もドキドキしなかったヤツなどいないだろう。少しくらい仕返ししても罰は当たるまい。