夏狩り過程
「そうだ。ちょっと買い物いってくる」
ゆったり泳ぐ入道雲を眺めていた要が、きょとんとした顔で私の方を見た。
「え?どこに」
「裁縫屋さん。モビールのお礼に、要に刺繍うちわ作る」
「え、なに、裁縫?刺繍?」
「うん。私の得意分野」
刺繍。唯一の私の趣味だったりする。
裁縫が得意なんて意外だねってよく言われる。
いいんです。意外でもなんでも、好きこそ物の上手なれなんです。
「朝顔がいい」
「ん?うちわ?」
「うん。朝顔描いてよ。ほしい」
「まかせて」
要のリクエストに、得意気に頷いた。
リクエストが朝顔なんて、かわいいな。
何色にしようか、どんなデザインにしようか。
まだ見ぬうちわに空想をふくらませながら、気分よく立ち上がる。
「……うわっ。立ちくらみ!」
「わー、若くないですねえ。あ。俺もだ、立ちくらみ」
「お互い歳とりましたねえ」
「もう19ですからねえ」
他愛もない話をしながら「いってきます」と五郎の頭をかきまぜて、日焼け止めを手に。
「俺にもちょうだい日焼け止め」
「え?なんで?」
「俺も行く」
「……えっ」
「せっかくだし。百いないとつまんないじゃん」
「……ど、どうぞ」
「ありがと」
ていうか要、もっと焼けなよ。なんて思いながら。