夏狩り過程



視線を向けると、要と目があった。


初恋。

中学よりさらに昔の話だ。



「同じ幼稚園の女の子にしたのが、俺の初恋」



幼稚園て。
もう私が自分のでさえ覚えてない時代のことじゃん。

そんなころから要は大恋愛を経験してたなんて、なんて大人なの。



「かわいいねえ、それ」

「そう、かわいい俺の初恋の話。特別仲良かったわけじゃない女の子に恋しちゃった俺の話」



こっちを見て小さく笑った要の顔が、黒い髪が、線香花火の光に照らされて。

どき、と。

そのとき確かに、私の心臓が鳴った。


これはたぶん、夏のせいじゃない。



「どうにかその子と接点を作りたくて、仲良くなりたくて、でも子供すぎてどうしたらいいか分かんなくて」



手元を見ながら要は続けた。


ひぐらしの声と線香花火がはじける音と、要の声だけが、私の耳に届く。

要の横顔が夏の夕暮れに滲む。



「ある日、その子が夏が好きだって噂をきいた」



夏風が空をめぐる。

要がみつめる火花は落ちなかった。



「今となっちゃそんな本当かも分からない噂、律儀に信じちゃった俺すっげーばかだけどさ、そのときはもう一大事で」



要の声が揺れる。思い出して笑ってるんだ。



「そうかあの子が夏を好きなら、あの子が喜ぶものをプレゼントすればいいんだって」



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