夏狩り過程
「───あれ」
ひさしぶりな感触の居間の戸を開ける。ふわりと温度の低い風。畳と蚊取り線香がまじったにおい。
青い涼しげな風鈴の音と共に視界に入り込んできたのは、カンカン照りの日光できらめいた黒髪。
その瞳と、ゆっくり、視線が交わる。
「……え、」
だ、だれ。
「おかえり」
お父さんの釣り仲間じゃ、ない。
「た、ただいま……です」
夏にしては白い肌。風になびくストレートな黒髪の短髪。瞳もきれいな黒。
笑うその顔に釘付けになる。
「…………誰!」
この綺麗な青年はいったいどちら様。
「誰ってアンタ、忘れたの? 要くん」
「かなめくん?」
戸に手をかけたまま畳に一歩踏み出せないでいる私の後ろからお母さんが登場。手に持っているおぼんには切った西瓜がのっている。
“かなめくん”が、また小さく笑った。
「やっぱり、忘れてる」
「……え」
「ねー、薄情ねぇこの子ったら。はい要くん、西瓜食べてね」
「わーい、あざっす」
「ちょちょちょ、ちょっと」
待ってよお母さん、誰よ。
かなめくん、誰よ。
忘れてる、ってかなめくん、あなたは私を知ってるんですか。