夏狩り過程
「ごめんね要くん、お母さんが余計なこと」
「大丈夫だよおばさん」
西瓜に塩をふりかけながら、要くんは優しく笑う。
「好きなやつくらい、自分でつくるから」
にこやかに。
言い放たれた言葉に、水瀬家の女たちはとっさに何も返せなかった。
ごもっともです。
「要くんはしっかり者ねー」なんて席を立つお母さん。逃げたな。
……ていうかこれ、なんか私がフラれたっぽくなってないですか、大丈夫ですか。
「……要くん、はさ。えっと、今どこに住んでるの?」
「ん?」
「ホラ、大学とか専門学校とか就職とか、あるじゃん。私は上京して大学に通ってるんだけど」
「ああ。俺も大学生だよ。地元のだけど」
開け払われた戸から入る風が、青い風鈴を揺らす。蝉の声が容赦なく充満して、縁側には日光が反射する。
縁側から見える庭では、柴犬の五郎が昼寝をしている。
そんなよくある夏の光景の中で、私は西瓜を食べながら初対面の要くんとの会話を膨らませようと奮闘している。
なんだこれ。
「そうなんだ。じゃあ実家に住んでるんだね」
「そう。すぐ近くだよ、俺んち」
「えっ」
「歩いて20分くらい?」
……そんなに近所で、今まで知らなかったなんて。
あ、いや、要くんは知ってたのか。じゃあ初対面じゃないのかも。覚えてないからまあ、いいけど。